賃貸の退去費用はいくら?原状回復ガイドラインで負担の範囲を解説
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公開日: 2026年10月21日
執筆: くらしと住まいラボ編集部
賃貸の部屋を出るとき、気になるのが退去費用です。「いくら請求されるのか」「普通に住んでいただけなのに高く取られないか」と不安な人も多いでしょう。
この記事では、国土交通省のガイドラインと民法をもとに、退去費用の考え方をまとめました。ポイントは、普通に住んでできた傷みや年月による劣化は、原則として貸主の負担とされていることです。借主の負担になる場合も、壁紙(クロス)なら6年で価値がほぼなくなる計算で、住んだ年数に応じて負担が減ります。
退去費用で借主が負担するのは、不注意や手入れ不足でできた傷・汚れの修理代が基本です。日焼けや家具の跡など、普通の暮らしでできるものは貸主の負担とされています。ただし契約書の特約で負担が変わることがあるため、まず契約書と見積もりの内訳を確認しましょう。
- 退去費用(原状回復)の基本ルールと、民法・ガイドラインの考え方
- 借主負担と貸主負担の具体例(壁・床・設備など)
- 住んだ年数で負担が減る「経過年数」の考え方
- ハウスクリーニング特約などの特約が有効とされる条件
- 立ち会いの前にやることと、請求に納得できないときの相談先
賃貸の退去費用とは?原状回復の基本ルール
退去費用の多くは「原状回復(げんじょうかいふく)」の費用です。原状回復とは、借主が住んでいる間につけた傷や汚れを直して部屋を返すことをいいます。
よく誤解されますが、入居したときの新品同様の状態に戻すことではありません。2020年4月に施行された民法第621条では、通常の使用でできた損耗(すり減りや傷み)と経年変化は、借主が直す対象から除かれています。借主の責任ではない理由でできた損傷も、借主が直す義務はないとされています。
国土交通省のガイドラインが目安になる
退去費用の分け方の目安として広く使われているのが、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」です。裁判例や取引の実務をもとに、借主と貸主の負担の考え方を示しています。
ガイドラインでは、借主が負担するのは「故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用を超える使用」による損耗などとしています。善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)とは、借りた物を常識的な注意を払って大切に使う義務のことです。
ガイドライン自身が、一般的な基準であり法的な拘束力はないと書いています。すでに契約している人は、原則として契約書の内容に沿って扱われます。ただし契約書の条文があいまいな場合などは、ガイドラインを参考に話し合うよう国土交通省は案内しています。
敷金は退去費用を差し引いて返ってくるお金
敷金は、家賃の未払いや借主がつけた傷の修理代などに備えて預けるお金です。民法第622条の2では、部屋を明け渡した後、敷金から借主が払うべき金額を差し引いた残りを返すと定めています。「保証金」など名前が違っても、同じ目的のお金なら敷金にあたります。
敷金より退去費用が多い場合は、差額を請求されることがあります。
退去費用は誰が払う?借主負担と貸主負担の具体例
ガイドラインは、部屋の傷みを「普通に住んでいても発生するもの」と「住まい方次第で発生するもの」に分けています。前者は家賃に含まれているという考え方で貸主の負担、後者は借主の負担です。ガイドラインの例示から、主なものを表にしました。
| 場所 | 貸主の負担とされる例 | 借主の負担とされる例 |
|---|---|---|
| 床(畳・フローリング・カーペット) | 家具を置いたへこみや跡/日焼けによる畳の変色・フローリングの色落ち/フローリングのワックスがけ | 飲み物をこぼした後、手入れをせずにできたシミやカビ/引越し作業でついた引っかき傷/放置した冷蔵庫下のサビ跡 |
| 壁・天井(クロス) | テレビや冷蔵庫の裏の黒ずみ(電気ヤケ)/ポスターの跡/画びょうの穴(下地の交換が不要な程度)/日照によるクロスの変色 | 掃除を怠った台所の油汚れ/結露を放置して広がったカビ/タバコのヤニ・臭い/重い物をかけるためのくぎ穴(下地の交換が必要な程度)/落書き |
| 建具・柱 | 破損していない網戸の張り替え(次の入居者のため)/地震で割れたガラス | ペットがつけた柱やクロスの傷・臭い/落書きなど、わざとつけた傷 |
| 設備・その他 | 通常の掃除をしていた場合の専門業者によるハウスクリーニング/鍵の交換(なくしたり壊したりしていない場合)/寿命による設備の故障 | 手入れを怠ったコンロ周りや換気扇の油汚れ/風呂・トイレの水あかやカビ(掃除を怠った場合)/鍵をなくした・壊したときの交換 |
出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」別表3の修繕分担表をもとに作成。実際の負担は、傷の程度や契約書の特約によって変わります。
同じ汚れでも、日ごろの掃除や手入れをしていたかどうかで扱いが変わる点に注意しましょう。
住んだ年数で退去費用は減る|クロスは6年で価値1円
借主が負担する傷であっても、修理代の全額を払うとは限りません。ガイドラインでは、建物や設備の「経過年数」を考えて、年数が長いほど借主の負担割合を減らす考え方をとっています。
年月による劣化の分は、借主が家賃として払ってきているという考え方です。
| 部位 | 経過年数の考え方 | 借主が負担する範囲の目安 |
|---|---|---|
| 壁・天井のクロス | 6年で残存価値1円になるように負担割合を計算する | 1㎡単位が望ましいが、傷をつけた箇所を含む一面分まではやむを得ないとされる |
| カーペット・クッションフロア | 6年で残存価値1円になるように計算する | 傷みが複数の箇所にある場合は部屋全体 |
| フローリング | 部分的な補修は経過年数を考えない(全体を張り替える場合は建物の耐用年数で計算) | 原則1㎡単位 |
| 畳表・ふすま紙・障子紙 | 消耗品として経過年数を考えない | 畳は原則1枚単位、ふすまは1枚単位 |
| 鍵(なくした場合) | 経過年数を考えない | シリンダー(鍵穴部分)の交換費用 |
| ハウスクリーニング | 経過年数を考えない | 通常の掃除をしていない場合だけ、その部分または部屋全体の清掃費用 |
出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」別表2・別表3をもとに作成(2026年10月21日確認)。
クロスの負担割合の考え方(例)
たとえば、入居の直前に張り替えた新しいクロスを、不注意で傷つけたとします。ガイドラインの図(定額法の場合)では、6年で価値が1円になるよう、年数に応じて一直線に下がっていきます。このため、3年住んで退去した場合の借主の負担割合は、おおむね半分という考え方になります。
入居時にすでに古いクロスだった場合は、グラフの出発点を下げて計算します。6年以上住めば負担割合はほぼなくなりますが、わざと書いた落書きを消す工事費などは借主の負担になる場合があるとされています。
ガイドラインでは、喫煙で部屋全体のクロスが変色したり臭いがついたりした場合に限り、部屋全体のクリーニングや張り替え費用を借主の負担とするのが妥当としています。この場合も、クロスの経過年数は考慮されます。
ハウスクリーニング特約など「特約」がある場合
契約書に「退去時のハウスクリーニング費用は借主の負担とする」などと書かれていることがあります。このように、本来は貸主が負担するものを借主の負担とする約束を「特約」といいます。
特約は何でも有効になるわけではありません。ガイドラインでは、借主に特別な負担を課す特約が有効とされるには、次の3つの条件が必要と整理しています。
- 特約が必要で、暴利的でないなど、客観的・合理的な理由があること
- 借主が、通常の原状回復を超える負担を負うことを分かっていること
- 借主が、その負担を受け入れる意思を示していること
ガイドラインでは最高裁の判例も紹介しています。借主が負担する通常損耗の範囲が契約書に具体的に書かれているか、口頭で説明されて明確に合意していることが必要だという内容です。
つまり、ハウスクリーニング特約があるかどうか、金額が書かれているかどうかで扱いは変わります。有効かどうかは個別の事情によって判断されるため、迷ったら下で紹介する相談先に聞いてみましょう。
賃貸の退去費用の相場は?公的な全国の目安はない
退去費用は、部屋の広さ、傷の場所や程度、住んだ年数、契約の特約によって大きく変わります。国や公的機関が公表している「全国の退去費用の相場」は、確認した範囲では見つかりませんでした。
ガイドラインには「原状回復工事施工目安単価」という表がありますが、金額は空欄の書式です。貸主と借主が契約のときに単価を書き込み、負担額の目安を共有するためのものです。
一方で、退去費用をめぐるトラブルは少なくありません。国民生活センターによると、賃貸住宅の原状回復トラブルの相談は毎年1万3,000件を超えています。
| 年度 | 相談件数 |
|---|---|
| 2023年度 | 13,273件 |
| 2024年度 | 13,312件 |
| 2025年度 | 14,711件 |
出典: 国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」(2026年7月31日更新、PIO-NETに登録された相談件数。消費生活センター等からの経由相談は含まない)。
国民生活センターの2023年の発表では、相談は2月から4月に増える傾向があるとされています。
退去費用を高くしないために|立ち会いの前と当日にやること
退去費用のトラブルは、傷が入居前からあったのか、住んでいる間についたのかが分からないことから起きがちです。ガイドラインも国民生活センターも、入居時と退去時に部屋の状態を写真などで記録しておくことをすすめています。
| 見積もりで確認したいこと | 見るポイント |
|---|---|
| 通常の損耗が入っていないか | 日焼け・家具の跡・画びょうの穴など、ガイドラインで貸主負担とされる例が含まれていないか |
| 範囲が広すぎないか | 傷が一部なのに、部屋全体のクロスや床を張り替える費用になっていないか |
| 経過年数が考えられているか | 住んだ年数に応じて、クロスなどの負担割合が下げられているか |
| 特約の根拠があるか | ハウスクリーニング代などが、契約書のどの特約にもとづく請求なのか |
| 二重の請求がないか | 入居時に払ったクリーニング代などと重なっていないか |
※ 国土交通省のガイドラインと、国民生活センターが紹介している相談事例をもとに作成したチェック項目です。
退去費用が高い・納得できないときの相談の流れ
国民生活センターは、納得できない請求を受けたら、貸主側に費用の明細などの説明を求めて話し合うよう案内しています。それでも解決しないときの流れは、次のとおりです。
少額訴訟は、原則として1回の審理で解決を目指す手続きです。最初の期日までに言い分と証拠をすべて出す必要があり、証拠はその場ですぐ調べられるものに限られます。
この記事では、個別の請求を払うべきかどうかの判断はできません。具体的な判断が必要なときは、消費生活センターや弁護士などの専門家に相談してください。
よくある質問
まとめ|退去費用はガイドラインと契約書で確認を
賃貸の退去費用で借主が負担するのは、不注意や手入れ不足でできた傷・汚れの修理代が基本です。普通に住んでできる傷みや年月による劣化は、国土交通省のガイドラインでは貸主の負担とされています。借主の負担でも、クロスなら6年で価値1円となる考え方で、住んだ年数に応じて負担が減ります。
ただし、ハウスクリーニング特約など、契約書の内容で負担が変わることがあります。退去の前に契約書を読み直し、部屋の写真を撮り、見積もりの内訳を確認しましょう。納得できないときは、まず内訳の説明を求め、解決しなければ消費者ホットライン188に相談してください。
参考資料
- 国土交通省「「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について」
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」PDF
- e-Gov法令検索「民法」第621条・第622条の2
- 国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」
- 国民生活センター「住み始める時から、「いつか出ていく時」に備えておこう!」(2023年2月1日)
- 国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意!」(2026年2月17日)
- 消費者庁「消費者ホットライン」
- 裁判所「少額訴訟」
※ 2026年10月21日 時点で確認した内容です。料金や制度は変わることがあるため、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。

